浦和地方裁判所 昭和41年(ワ)344号 判決 1968年7月16日
原告
畠山正治
ほか一名
被告
坂本ヨシ子
ほか二名
主文
一、被告坂本好治、同坂本庄一は、連帯して、原告畠山正治、同畠山とめ子それぞれに対し、金二、四五四、三四五円及びこれに対する昭和三九年四月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告らの被告坂本好治、同坂本庄一に対するその余の請求及び被告坂本ヨシ子に対する請求はいずれも棄却する。
三、訴訟費用中、原告らと被告坂本好治、同坂本庄一との間に生じたものはこれを三分し、その一を原告らの負担としその余を被告坂本好治、同坂本庄一の負担とし、原告らと被告坂本ヨシ子との間に生じたものはこれを原告らの負担とする。
四、この判決は、原告らにおいてそれぞれ金二〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は「被告らは、原告両名に対し、連帯して、九、二七三、四八三円及びこれに対する昭和三九年四月二七日から右金員の支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、被告坂本ヨシ子は大型貨物自動車(栃一せ三〇三二)の使用権を有し右自動車の保有者として自己のために運行の用に供しているものであり、被告坂本好治は坂本建材という商号を用いて建築材料の販売業を営み、被告坂本庄一を雇い入れ、その業務に従事せしめているものであり、被告坂本庄一は被告坂本好治に雇われ、その営業とする建築材料の販売の業務に従しているもので、右建築材料を運搬するため、貨物自動車の運搬に従事していたが、昭和三九年三月二六日から同年四月二九日まで三五日間運転免許の効力停止処分をうけ、その間運転助手として貨物自動車に乗つて右運搬業務に従事していたものである。
二、被告坂本庄一は昭和三九年四月二六日午前五時二八分頃被告坂本ヨシ子が保有者である大型貨物自動車を運転して、埼玉県草加市谷ケ塚町一八九番地先四号国道(幅一〇メートル)を東京方面より越ケ谷方面に向かい、時速約四〇粁の速度で進行中、同じ道路と自転車に乗つて同方向に通行していた亡畠山勝夫(以下勝夫という)が前方にいるのに後方からこれに接触し、勝夫を同道路上に転倒せしめ、このため勝夫をして第三、四胸推脱臼骨折兼下半身完全麻痺第七肋骨以下知覚運動麻痺アキレス腱膝茎腱反射消失膀胱直腸麻痺の重傷を負わせ、これが原因となつて昭和四三年一月三日死亡するに至らせた。
三、右事故の発生箇所は見通しのよい所であり、被告坂本庄一が自動車の運転者として常に前方に注意し、本件の如く勝夫の乗車せる自転車を追い越すような場合には、その動向に注意して安全を確認した上その右側を追い越すべき注意義務を怠つたがために過失によつて発生したものである。したがつて同被告はこれによつて蒙つた勝夫の損害を賠償する義務がある。
四、また被告坂本好治は坂本庄一の使用者として業務の執行のため、自己の被用者である坂本庄一をして前記貨物自動車を運転させたものであるから、右被告は、これによつて蒙つた勝夫の損害を賠償する義務がある。
五、更に被告坂本ヨシ子は自動車損害賠償保障法第三条(以下自賠法三条という)にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」で本件事故はその運行によつて生じたものであるから、右被告はこれによつて蒙つた勝夫の損害を賠償する義務がある。
六、本件事故により勝夫の蒙つた損害は次のとおりである。
(一) 積極的損害
1 医療費
(イ) 和知外科医院入院治療費
事故発生当日(昭和三九年四月二九日)より同年七月一三日までの費用 金一七七、一一五円
(ロ) 長島病院入院治療費
昭和三九年七月一三日より昭和四〇年六月までの費用 金一九四、〇九六円
2 附添家政婦費
勝夫が右和知外科医院及び長島病院に入院中、家政婦の附添を必要としたため右入院期間中の家政婦の費用 金二七三、四八二円
3 車椅子その他の費用
伸縮松葉杖。骨盤帯付両股関節膝関節足関節固定用歩行装具、車椅子等は勝夫の歩行のため必要不可欠のものである。
金九九、三〇〇円
4 入院に要した雑費
交通費、患者用マツト、氷保存用タイガジヤー、国民保健家族負担(三月分より八月分まで)付添食(三月分より八月分まで)の諸費用 金一〇二、四六二円
5 弁護士費用
法律協会が立替えて当代理人に支払つた手数料 金五〇、〇〇〇円
以上の積極的損害の合計 金八九六、四五五円
(二) 消極的損害
1 得べかりし利益の喪失
(イ) 勝夫は事故当時川口市本町三丁目一四六番地有限会社関口解体工業所(代表者関口加美男)に解体工として雇われ、月収平均金三三、八〇〇円(日給一、三〇〇円一ケ月の稼働平均日数二六日)を得ていたが本件事故により労働能力を全く喪失し、その後昭和四三年一月三日本件事故による直腸膀胱障害、脊髄損傷の直接の死因として死亡した。
(ロ) 事故当時満二五才六月であつたから平均余命年数は四四・五八年であり、就労可能年数は満六〇才までとみつもり、なお三四年間就労可能である。
(ハ) 従つてその間に得べかりし収入として現在の取得額に換算するためホフマン式単利年金現価表を用いると法定利率年五分、期間三四年の単利年金現価率の値は19,55381473であるから、金七、九三一、〇二八円(405,6000円×19,55381473=7,931,028円 円未満切捨)となる。
2 慰藉料
勝夫は本件事故当時満二五年六月(昭和一三年一〇月五日生)の健康な独身男子であつたが右事故のため廃人同様となり、結婚の希望も絶たれ独立生活能力を奪われ、精神上、肉体上実に言うべからざる苦痛を蒙り病院生活を続けたまま病院において死亡したから、これを慰藉するには金五〇〇、〇〇〇円が相当である。
以上の消極的損害の合計 金八、四三一、〇二八円
総計 金九、三二七、四八三円
(三) 損害額から控除すべき額 被告が和知外科医院に支払つた額 金五四、〇〇〇円
差引残損害額 金九、二七三、四八三円
七、勝夫は原告として本件訴訟係属中死亡したところ、配偶者も直系卑属もおらないので、その直系尊属である父原告正治母原告とめ子両名が勝夫の死亡によつて前記損害の賠償請求権を相続により取得し、本件訴訟を承継した。
八、よつて原告らは被告らに対し連帯して合計金九、二七三、四八三円及びこれに対する事故の翌日である昭和三九年四月二七日からその支払ずみに至るまで年五分による割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ。
原告らは右の主張に反する被告らの主張を否認した。
被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求め、答弁及び主張として次のとおり述べた。
一、原告請求原因中、第二項被告坂本庄一が大型貨物自動車(栃一せ三〇三二)を運転したこと、同人運転の自動車によつて、勝夫の自転車に接触し勝夫が重傷を負いその後死亡したことは認めるも、その余の点は否認する。
第六項は不知である。
第七項原告らは勝夫の相続人であるから、仮に被告らに損害賠償義務があるとすれば、原告らがその請求権を承継取得することは認める。
二、被告坂本ヨシ子は自動車の所有者でなく、又自己のために運行の用に供したものでもない。
坂本庄一のためにただ単に形式上の名義人となつたにすぎなく右自動車に対する代金の支払は一回も行つてない。
被告坂本好治は被告坂本庄一を雇い入れていない。坂本庄一は独立して営業をなしていたものである従つて被告坂本好治は民法第七一五条の使用主でもない。
被告坂本庄一は自ら自動車一台をもつて独立して建築材料の砂利運搬を業としていたもので、被告坂本好治に雇われてはいない。
三、本件事故の発生は不可抗力である。被告坂本庄一が勝夫に対し注意しながら進行中、勝夫が急に右折して被告の直前へ出てきたので、衝突したのであり、前方を注意しても発生した事故であり被告坂本庄一には前方注意義務の違反はない。
四、抗弁として過失相殺を主張する。
仮りに被告坂本庄一に何らかの過失があつたとする場合でも勝夫には次のような過失があるので相殺を主張し、損害額についてしんしやくすべきである。
本件事故は勝夫の過失によつて発生したものである。つまり被告庄一が勝夫の進行に注意しながら進行中勝夫が急に右折して車道の中央方向へ現われ被告庄一の直前へ進行してきたので被告庄一の急ブレーキも及ばず衝突したのであり、更に勝夫は前日夕方から一晩中不眠で酒でも飲んでいたようで走る状態は酔つぱらいか居眠りか極度の疲労の様子であつた。従つてこの事故は勝夫の過夫によるものである。
〔証拠関係略〕
理由
一、当事者間に争いのない事実
勝夫は昭和三九年四月二五日午前五時三〇分頃埼玉県草加市谷塚町一八九番地先四号国道(幅員一〇米)上を東京方面から越ケ谷方面に向い道路の左側を自転車に乗つて進行していたが勝夫が前方を同一方向へ走行しているのに被告坂本庄一の運転する大型貨物自動車(栃一せ三〇三二号)が後方からこれに接触し、勝夫を同道路上に転倒せしめたこと、これがため勝夫は重傷を蒙り、その後死亡したことについては当事者間に争いがない。
また勝夫は原告として本件訴訟係属中死亡したので、父原告畠山正治母同畠山とめ子が本件訴訟を承継したことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
二、右事故の情況について
〔証拠略〕を総合すると被告坂本庄一は昭和三九年四月二五日東京方面から越谷市方面に向かい時速約三五粁乃至四〇粁で進行し同日午前五時三〇分頃草加市谷塚町附近にさしかかつたこと。当時右附近の道路面は幅一〇メートルのアスフアルトの舗装された車道の両側に歩道がもうけられている直線にして勾配の無い見透しの良好な場所であつたが、路面は雨上りのため湿潤の状態であつたこと、同被告は事故発生地から前方約五・六百メートル先を自転車で同一方向に進行する勝夫の自転車を認めたこと。勝夫は当初車道の中央寄りを走行していたが、先行自動車の警音器で左側に寄つたので同被告運転の自動車はそのまま進行し自転車を追い抜こうとしたが、勝夫が進路を急に右斜め前に進出したのを約五・五メートル前で発見し、衝突をさけるため突嗟に急ブレーキをかけると共に右にハンドルを切つたが間に合わず、前部左側車体を勝夫及び自転車に衝突し勝夫を路上に転倒させよつて勝夫に第三、四胸椎脱臼、骨折、乳房以下完全麻痺の重傷を負わせたことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
三、被告坂本庄一の過失について
〔証拠略〕によると、前記事故現場において被告庄一は前方の見透しのよい約五〇〇メートル前で同一方向に左側車道を走つて行く勝夫運転の自転車を認めたこと、その後被告庄一運転の自動車の先行ダンプカーが警音器を吹嗚したので、勝夫運転の自転車はこれを避けるため車道左端に寄つて進行したこと、被告庄一は右自転車が車道左端に寄つて進行したのを目撃して容易に追越すことができるものと軽信し、警音器を吹嗚することなく従前の速度と方法のまま漫然追越そうとしたところ、勝夫は余り左端に寄り過ぎたものと考え車道左端から二・五メートル附近まで自転車を右方へ進行させたので、被告庄一は約五・五メートル前に近接して初めて衝突の危険を感じ運転の自動車につき急停止の措置をすると共にハンドルを右に切つたが間に合わず、遂に自動車を自転車と接触させて勝夫をその場に転倒させたことが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は前顕証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。かかる場合自動車運転者たる者は前方の自転車の動静に充分注意し該自転車が何時右寄りに向きを変えてもこれを避譲できるよう且つ前記認定のとおり当日は雨上りのため路面は湿潤の状態であり急ブレーキをかけた場合スリツプする危険が予想されるから何時如何なる場合も急停止または避譲できるよう適当に減速するは勿論、追越にかかる前警音器を吹嗚する等して事故の発生を未然に防止すべき義務があるのに拘わらず、被告庄一は前記認定のとおりこれを怠つたのであるから、本件事故の発生は被告庄一の過失に基因することが明白であり、したがつて被告庄一は民法第七〇九条により右事故により勝夫の蒙つた損害を賠償する責任がある。
四、被告坂本好治と被告坂本庄一とが民法第七一五条にいわゆる「使用者と被用者」の関係にあるかどうか及び被告坂本庄一の前記自動車の操縦行為が同条にいわゆる「使用者の業務の執行」につき惹起されたものであるかどうかについて判断する。
〔証拠略〕を綜合すると、被告庄一は昭和三八年一〇月から坂本建材店なる商号で建材業を営む叔父(父の弟)被告坂本好治に運転手として雇われ、好治方に同居して砂利運搬トラツクの運転の業務に従事中本件事故が惹起されたこと、被告好治は本件事故当日である昭和三九年四月二六日草加警察署に出頭して、被告庄一が本件事故の際運転した自家用大型貨物自動車栃一せ三〇三二号を使用主としてこれを受領したこと、被告庄一自身は勿論砂利運搬業として商号もなければ届出もしておらなかつたことが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は前顕各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
右認定事実によると被告好治と被告庄一とは使用者と被用者との関係にあつたものと認めるのが相当である。
次に〔証拠略〕によれば、昭和三九年四月二六日午前三時頃、本件事故の大型貨物自動車に建材料である砂利を積んで建材業者である雇主被告好治が運転し被告庄一が助手として乗り、東京浅草へ行きそこで荷をおろして、帰路は被告庄一が右貨物自動車を運転して栃木方面へ向つて進行中に本件事故を起こしたことが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は前顕証拠と対比してたやすく措信し難く他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によると、本件事故は被告庄一が被告好治の業務の執行につき生ぜしめたものと認めるのが相当である。
しかして被告好治は、庄一の選任、監督について何ら主張をしていないので、民法第七一五条により、本件事故によつて勝夫の蒙つた損害を賠償する責任がある。
五、次に被告坂本ヨシ子の責任について考察する。
自賠法三条の責任を有する者とは「自己のために自動車を運行の用に供した者」であり、すなわち運行供用者であるが、この場合運行供用者であるためには、「自己の計算において自動車を使用し、その使用につき必要な自動車に対する事実上の処分権を有するものか、あるいは事故の当時に自動車を自己の計算において使用しかつ自動車においてかかる使用を前提とする処分権を有するもの」であることが必要であるところ、本件事故に際し被告庄一が運転した大型貨物自動車(栃一せ三〇三二)につき被告坂本ヨシ子に右の運行利益が帰属し運行支配権があつたことについてはこれを認めるに足る証拠はない。すなわち〔証拠略〕を総合すると、本件事故に際し被告庄一が運転した大型貨物自動車(栃一せ三〇三二)購入に当つて訴外三菱ふそう自動車株式会社を相手とし自動車割賦売買契約を締結する際契約者本人は被告ヨシ子(連帯保証人は被告好治)ではあつたがそれはただ名義だけであつて、ヨシ子は建材業の営業主ではなく、その営業主はヨシ子の夫である被告好治であり、被告好治は本件事故当日である昭和三九年四月二六日草加警察署に出頭して前記大型貨物自動車をその使用主としてこれを受領したこと、被告好治は本件大型貨物自動車購入後間もなく同じく訴外三菱ふそう自動車株式会社から妻被告ヨシ子名義で他の大型貨物自動車一台を購入して自己の建材業に使用していたこと、被告庄一は被告好治に雇われて砂利運搬の業務に従事しており、庄一自身は勿論砂利運搬業の商号もなければその届出もしておらなかつたことが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分は前顕各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によると本件大型貨物自動車の運行供用者は被告坂本好治であつて被告坂本ヨシ子ではないと解するを相当とする。
したがつて被告坂本ヨシ子は勝夫の蒙つた損害を賠償する責任を有しない。
六、被告ら主張の過失相殺について判断する。
勝夫が本件事故当事飲酒していたとの被告らの主張はこれを認めるに足る証拠がない。
〔証拠略〕を総合すると、被告庄一が草加市内に入つた辺りで前方五・六百メートルの地点で勝夫の自転車が同一方向に進行していくのを認め、その時は勝夫の自転車は最初幅約一〇メートルの車道の中央寄りを走行していたが、近ずくにつれ車道の左側端約一米の所を進行し、その後被告庄一の自動車が五・五メートルに迫つたとき、勝夫は車道後方の交通状況につき安全を確認することなく、急に勝夫の自転車が中央寄りに右へ走行し車道端より中央寄りへ約二・五メートルの地点を走行しているとき被告庄一の自動車と衝突したことを認めることができる。いやしくも交通量の多い車道で自転車を運転する場合は車道の左端の部分を走行すべきであり、巾員約一〇メートルの車道左側より約二・五メートルも中央寄りに走行することは後車からの進行妨害あるいは後車からの追突が予想される危険な走行方法であり、若し中央に寄る必要がある場合は安全かどうかを確認するため後方の交通状況に注意すべき義務のあることは当然であるから、右注意義務を怠つた勝夫は本件事故の発生につき相当の過失があつたものといわなければならない。しかして勝夫の過失と被告庄一の過失とを比較すると、双方の過失の度合は大体勝夫が二に対し庄一が八の割合であると認めるのが相当である。
七、勝夫が本件事故によつて蒙つた損害の額について検討する。
(一) 積極的損害
〔証拠略〕を総合すると勝夫は、積極的損害として和知外科医院入院治療費金一一八、一一五円・長島病院入院治療費金一九四、〇九六円・家政婦費金二七三、四八二円・伸縮松葉杖金一、三〇〇円・骨盤帯付両股関節膝関節足関節間定用装具金五〇、〇〇〇円・車椅子金四八、〇〇〇円・交通費国民保健家族負担費付添食計金七九、〇六二円・弁護士費用金五〇、〇〇〇円合計金八一五、〇五五円の支出をしたことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。しかして爾余の原告ら主張の積極的損害についてはこれを認めるに足る証拠がない。よつて勝夫が蒙つた積極的損害の金額は合計金八一五、〇五五円となる。もつとも本件事故については前記のように勝夫にも過失があるのでこれを斟酌すると、勝夫の積極的損害の賠償請求額は金六五二、〇四四円(円未満切捨)となる。
(二) 消極的損害
1 勝夫の失つた得べかりし利益
〔証拠略〕を総合すると、勝夫は本件事故当時川口市の有限会社関口解体工業所に解体工として雇われ事故前に取得した月平均の賃金は金三二、〇〇〇円であつたが、事故後直腸膀胱障害のため順次和知外科医院、長島病院、国立嗚子病院に入院治療を受け、遂に昭和四三年一月三日嗚子病院において死亡するに至つたことが認められる。しかして昭和四一年総理府統計局編第一七回日本統計年鑑所掲「都市地方年間収入階級別全世帯平均一カ月間の消費支出表」によれば勝夫の川口市における一カ月の生活費は金一一、六九八円である。よつて勝夫の年間純収入は金二四三、六二四円である。ところで〔証拠略〕によると、勝夫は昭和一三年一〇月五日生まれで事故当時満二五年六月であることが認められるから、就労可能年数を満六〇才までとして三四年間就労可能である。そうすると勝夫は三四年間にわたり一年平均金二四三、六〇〇円宛のうべかりし利益を喪失したことになり、右金員の合計額についてホフマン式計算法(単利年金現価表)により年五分の中間利息を控除して事故当時における一時払額に換算すると金四、七六三、三〇九円(円未満切捨)となる。もつとも本件事故については前記のように勝夫にも過失があるのでこれを斟酌すると、得べかりし利益の喪失についての賠償請求額は金三、八一〇、六四七円(円未満切捨)となる。
2 慰藉料
〔証拠略〕を総合すると、勝夫は本件事故により膀胱直腸障害を蒙り本件事故後直ちに入院治療を続け、その病状ははかばかしくなく、大小便の排泄等統御し得ず知覚麻痺の状態を呈し一人で日常の身のまわりの整理をすることも困難な状態で約三年九ケ月の間病床に苦しんだまま右膀胱直腸障害を原因とする尿毒症に因り死亡した(したがつて本件事故と死亡との間には因果関係があることが推認される)が認められ、また〔証拠略〕によると勝夫ないし原告らと被告らとの間に示談が成立していないことが認められる。右事実と前認定の被害者の過失の度合その他本件全証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると、勝夫の受けるべき慰藉料の額は金五〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
以上(一)、(二)1 2の総計は金四、九六二、六九一円となるが、被告らが和知外科医院に金五四、〇〇〇円を勝夫に代つて支払つたことは原告らの自白するところであるから、これを控除すると勝夫の損害賠償請求権は金四、九〇八、六九一円となる。
八、原告らの相続
〔証拠略〕によると、勝夫は配偶者も直系卑属もおらなかつたことが認められるから、その直系尊属である父原告正治・母原告とめ子両名がそれぞれ勝夫の死亡によつて前記勝夫の合計金四、九〇八、六九一円の損害賠償請求権の二分の一である金二、四五四、三四五円(円未満切捨)づつの債権を相続により承継取得したことになる。
九、よつて原告らの本訴請求は、被告坂本庄一及び被告坂本好治それぞれに対し、連帯して原告畠山正治、原告畠山とめ子それぞれに金二、四五四、三四五円づつ及びこれに対するそれぞれ昭和三九年四月二七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においては理由があるからこれを認容しその余は理由がないからこれを棄却し、なお被告坂本ヨシ子に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条第一項第八九号を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 松澤二郎)